西蔵七日  SEVEN DAYS IN TIBET

六道輪回図 (The Wheel of Life)

お土産コーナーでも取り上げたタンカ(Tangka)の中で、六道輪回図 (The Wheel of Life) というポピュラーなテーマを描いたものがある。寺院の入り口でもよく見かける図柄で、いろいろ説明も聞いたので、ここで、ちょっと解説にトライしてみたい。元が30cmくらいの小さなタンカなので (それでもすべてハンドライティングで、細かく緻密に描いてある)、やや見にくいが、つきあってください。


この図柄の基本には、輪廻の考え方がある。つまり、人は死後すぐ生まれ変わるのであるが、何に生まれ変わるかは、前世での行いによる。この六道輪回図 (The Wheel of Life ) は、その仕組みを、輪の中に、わかりやすく、解説したものと言える。


中央の円内には、3匹の動物が描かれている。おんどりと、蛇と、豚である。人間の3つの代表する罪である欲と憎悪と無知(貧瞋痴の三毒)を表している。
その外の円は、右半分が暗く、左半分が明るく描かれている。
右の半円は、前世の悪い行いにより、地獄界に落ちていく人々を表している。左の半円は、前世の善行により、天上界に行く人々が描かれている(善行の道(白道)と悪行の道(黒道))。
このようにして、死んだ後も、人は、6つの世界に生まれ変わっていくというのがこの六道輪回図の考え方である。6つの世界とは、天上、人間、修羅(阿修羅)、畜生、餓鬼、地獄である(六道)。

地獄界はさらに3つに分かれている。
左下の世界は、動物の世界(畜生)である。動物は、叩かれたり、食べられたりしてしまうものである。
右下の世界は、飢えと乾きの世界を表している(餓鬼)。ここの人の口は小さく、のどは針のように細い。彼らの膨れた腹は、栄養失調によるものである。
中央下の世界はおなじみの閻魔大王(YAMA)が支配している地獄である。YAMAは、故人の行動を図る秤を持っている。この故人の行為は、小さな玉で描かれることが多く、悪い場合は黒玉、よい場合は白玉で表される。左側がいい加減な生き方をした人達だが、右側は、まだましで、生まれ変わることができるチャンスのある人々である。YAMAが持っている鏡は、容赦なく人々に真実を見せつけている。地獄の火が燃え盛っており、この世界の人々は、悪魔達に地獄の責め苦にあっている。

死後人の永遠なる魂は、体から離れ、バルド(BARDO)と呼ばれる、死と生の中間的な世界に行き、さまざまな経験をする。この経験は、現世での行いや、教義に対する知識の会得状況により違うのであるが、悟りを開いた僧達は、究極の無の世界を理解し、次にどう生まれ変わるかがわかるのである。

天上界も3つに分かれている(天上、人間、阿修羅)。
天上界では、何の心配もなく、病気もなく、全てがバラ色の世界である。しかしこの世界も永遠に続くものではない。また、次の世界に生まれ変わっていくのである。
その外側の輪には、さらに12の絵が描かれており、さまざまな説話に基づいた絵が描かれている(12因縁。無名、行、色、名色、六処、触、受、愛、取、有、生、老死)。
人々は、この6つの世界を生まれ変わっていくが、悟り(Enlightenment)の境地に達した人は、この輪から抜け出て、さらに、仏への道も用意されている。為す力(カルマ)によって、最終解脱に達し、仏になるということである。その道は、輪の上方に描かれており、虹で表わさられている。その上にいるのは、仏様と観音様だろう(全体図ご参照)。

輪全体は、鋭い牙と爪を持った怪物に支えられている(虎のデザインのものもあったが)。この怪物が何者かは定かではない。一説によるとMahakalaと呼ばれる怪物という説もある。Mahakalaとは、"偉大な時"、"偉大な黒=闇"とか言う意味で、Kalaは、”時間”の意味であるから、結局、時間はすべての物、人の破壊者で、死をもたらすものということになる。一方で、時間は永遠であるから、そこに始まりも終わりもなく、いつも続いている。そして、この無限の時間は、有限の時間の積み重ねからなっている。有限の時間とは、人生である。

ということで、哲学的な大きな命題を、庶民にもわかりやすく描いた奥の深い図柄なのです。チベットのタンカは、この他に仏様を描いたもの、幾何学的な曼荼羅を描いたもの、人体(チベット医学、解剖図)を描いたものなど、いろいろあります。美術品としても、文化的財産としても、たいへん興味深いものです。もちろん、信仰の対象ですので、有難いものです。これらのチベット仏教の芸術を見るだけでも、チベットに行く価値はあります。

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